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ルイヴィトンネヴァーフルイディール編集

 アディリシアが口元を押さえる。  撃破《げきは》きれた魔神は三十と四。だが、これ以上は猫屋敷の霊符も、穂波の矢も、みかんの体力も保《も》つまい。何よりいっき自身の身体《からだ》がとっくに限界を超えている。  だけど、それでも。  視る。  最初にあったモノを——もはや混ざったモノを——何もかもを歪《ゆが》めてしまったモノを視る。  視ることで、認識《にんしき》することで、カタチのないものにカタチを与《あた》える。  ——混沌《こんとん》から秩序《ちつじょ》をっくる。  ゆっくりと、いつきは汚泥への距離《きょり》を詰《つ》めていく。指一本ほどの距離まで近づいて、少年は右手を振り上げた。 「お前の虚栄《きょえい》は——」  息を吸って、 「——お前が償《っぐな》え!」  いつきが右手を突《つ》き出す。 「ウ・ガ・アア・アア・アアアアアア・アアアアアアアアアアァァァァァ!」  瞬間《しゅんかん》、びしゃあと汚泥《おでい》が広がった。 「いっちゃん!」  その右手ごと、少年を汚泥が飲み込んだのだ。たとえどれほど魔神を失おうが、ただひとりの人間を喰らうなどたやすい。最後の最後で、少年は詰めを誤った。  少なくとも、汚泥《オズワルド》はそう思おうとした。  そんなはずがなかった。
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